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10年イシウエのブログ~とりあえず今日を生き抜きたいからっ!~

”凡人”10年イシウエがそれでも生き抜くために日々摂取している『心の栄養素』あれこれを書き綴っていきます。

”マイ・ファースト・ムービー”という本の話~”クリエイトする”ことの恍惚と不安

本・漫画

 映画が好き、という人を見つけると決まって私が”読んでみて”って勧める本があるんです。

 

マイ・ファースト・ムービー―私はデビュー作をこうして撮った

マイ・ファースト・ムービー―私はデビュー作をこうして撮った

  • 作者: スティーヴンローウェンスタイン,Stephen Lowenstein,宮本高晴
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 単行本
  • クリック: 6回
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その名の通り名だたる映画監督16人が自身の処女作を撮った際の思い出を語るインタビュー集。

 

インタビューされている監督はジョエル&イーサン・コーエン、アリソン・アンダース、ケヴィン・スミス、スティーブン・フリアーズ、ケン・ローチ、マイク・リー、ベルトラン・タヴェルニエ、バリー・レヴィンソン、ニール・ジョーダン、マイク・フィギス、ペドロ・アルモドバル、スティーブ・ブシェーミ、ゲーリー・オールドマン、アン・リー、P・J・ホーガン、ジェイムズ・マンゴールド。

 

それこそスピルバーグのような誰でも知ってる有名どころというよりは、若干通好みな渋い人選。あとスティーブ・ブシェーミとゲーリー・オールドマンという本来俳優業の方で有名な人も押さえてるとこが面白い。

 

なぜ映画作りを志したか、そして初めて映画を撮ろうとしたときの様々な苦労話の数々。どんな監督でも出だしは我々と同じ素人だったわけで、その初々しくも涙ぐましい逸話に思わず感心したり笑ったり。一種の”青春ストーリー”として読める本でもあります。

 

もちろん全ての監督の話しそれぞれとても興味深いんですが、この中で特に印象に残ってるのが”ブロークバック・マウンテン”や最近だと”ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日”を撮ったアン・リーと”17歳のカルテ”や”ウルヴァリン:SAMURAI”を撮ったジェイムズ・マンゴールドのインタビューなんです。

 

ブロークバック・マウンテン プレミアム・エディション [DVD]

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ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 [DVD]

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17歳のカルテ コレクターズ・エディション [DVD]

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ウルヴァリン:SAMURAI [DVD]

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〇アン・リー

1954年台湾に生まれ、東岸の都市花蓮で育つ。台湾の芸術院とイリノイ大学で演劇を学んだ後、1980年ニューヨーク大学映画学科に入学。1984年卒業制作作品『ファイン・ライン』が同大学の映画コンテストで一等を受賞する。これによって将来有望なフィルムメーカーとしてリーの名前は知られるようになり、エージェントまで付く身となるが、次の映画を作るのは6年後のことになる…

 

 すでに結婚し子供もいたにも関わらず監督としての仕事が全くなかった6年間は相当辛かったようで

 

「…まわりを眺めわたすと、私より数年先輩にあたる人たちのなかで映画が作れるようになっていたのはライターばかりだった…でもあるとき突然脚光を浴び、それを契機に監督としてのりだしていった。そうやって10年にひとりくらいはうまく監督になれる。それがこちらには希望の光となり、自分もいつかはそうなることを励みに頑張りつづけようとする。他人の目からは、はかない望みと映るかもしれないが、私たちにしてみればそこにしがみつくよりほかない。私は何人も知っている。かつての仲間たちだが、40かそこらになっていまだにいつか映画が作れるようになる日が来るのを待っている…」

 

まさにリアル”アオイホノオ”(笑)。この時期アン・リーは研究者の仕事をしている嫁さんに家計を任せ、シナリオを書く以外は完全に主夫業に徹していた。そもそも彼にとっては異国の地であるアメリカでこの状態、つうのは想像するにかなりシンドかったろうな、と思われるわけで。

 

 大学を出てから6年が経っていた。妻は(第二子を)妊娠していた。6年の間に私の中から新鮮さが消え、自信が失せていた。持ち込むものはすべて却下された。勢いというものがなくなっていた。耐えられなかった。ほとんど落ちるとこまで落ちていた。夜も眠れず、大きな穴に吸い込まれそうな気がした。

 

そんなとき、母国台湾の脚本コンテストを見つけ、すがる思いで応募、見事大賞と賞金を得て処女作”推手”を撮ることができたのだった。

推手 [DVD]

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私、こういった苦労話が大好物なんでつい感情移入して読んでしまいます。…しかし 移民でアメリカに来て尚且つアジア系、というハンディを越え今やアメリカを代表する映画監督といっても過言ではないアン・リーもこんな時代があったんですね。成功してよかったね!

 

ジェイムズ・マンゴールド

 

 11歳でスーパ8映画を撮り始め、17歳でカリフォルニア芸術大学で映画を学ぶ奨学金を獲得する。4年後、卒業制作作品『納屋再訪』がディズニーのマイケル・アイスナーの目に止まり、テレビ映画の監督に起用される。

 

しかしディズニーの幹部と揉め、その映画の演出をやっていた最中に監督の座を降ろされてしまう。御年21歳。

 

「ぼくの人生の暗黒時代が始まった。事件のショックは尾を引き、それまでの自信はどこかに消し飛んでいた」

「…一つはぼくはスピルバーグではなかったということ。21歳のぼくならなおさらそうではなかった」

「何のあてもないまま時折半端な仕事をこなすどん底生活が2年間続いた。みじめでしょうがなかった」

 

その後彼は再びコロンビア大学に入学し、一から映画を学び直すのだった。その際講師だったのが”アマデウス”の監督だったミロス・フォアマン。

アマデウス [DVD]

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その出会いが刺激となり、処女作である”君に逢いたくて”の脚本を書くことになる。

 

母の経営する居酒屋でピザを焼く無口な中年男が主人公のこの映画、とりたてて派手な事件はなにも起こらないのですがなんか小津安二郎映画に通じる、なんとも地味ではありましたが渋い味わいがあるいい作品でしたよ。(ちなみにサントラをソニック・ユースのサーストン・ムーアーが務めてます)

 

君に逢いたくて [DVD]

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…ところで私がこの本を好きなのは、なにかをクリエイトする人たちの気持ちのあり方について語ってるから。特に多数のスタッフや俳優、そして多額の費用がかかる”映画作り”を志すことは並々ならぬ狂った情熱が必要になるわけで。無我夢中で自身の想念を具現化すべく悩み苦しみ、やっとの思いで完成させた映画を見知らぬ観客に披露する、その時の不安と感動をビビッドに語る監督たちの姿はそれだけでまるで映画のようにドラマティックで魅力的なのです。

 

では最後にそんな”狂った情熱”に突き動かされる未来の映画監督、いや全てのクリエイターに通じるメッセージをジェイムズ・マンゴールドが言ってるので引用しておきます。実にいい言葉なんだこれが。

 

 「初めて映画を作ろうとするのであれば、心の底から関わりのもてるものを作らなくちゃいけない。無感覚になってはいけない。足掛かりになればそれでいいという態度じゃだめだ。最初の小説、最初の詩、最初の出版物は、それが最初のものであれ何であれ自分とは何者か、自分とは何を言いたいのかを世界に向けて訴えかけるものとなるからだ。

『君に逢いたくて』で僕が誇りに思うのは、あれが真剣な、心のこもった、切実な、そして誠実な映画だということだ。ヒット作になるかどうかなどと考えずとにかく作り上げた。それが一番重要であり、それだけですべてが報われる思いがしたものだ」


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