10年イシウエのブログ~とりあえず今日を生き抜きたいからっ!~

”凡人”10年イシウエがそれでも生き抜くために日々摂取している『心の栄養素』あれこれを書き綴っていきます。

この夏最強の”反戦映画”『野火』を観た

恐ろしい映画を観た。

 

映画館で観てから一週間を過ぎようとしているけど、まだその衝撃が残っている。

 

太平洋戦争時、実際にフィリピン戦線に参加した経験を持つ作家・大岡昇平の原作を塚本晋也監督が演出はもとより製作・脚本・撮影・編集、そして主演と一人何役も務め上げた作品、『野火』

 

nobi-movie.com

 

塚本監督、といえば1989年に製作し、今やカルト映画の金字塔と評される『鉄男』で一躍世界的な注目を浴びた方。熱狂的なファンのいる監督さんなのだが私自身は彼の映画は2003年の『六月の蛇』以来遠ざかっていた。

 

避けてたわけではないが、自分にとって塚本監督の映画は観るときにかなりの覚悟がいる、というか迂闊に触れると精神的ダメージがキツイんで、それなりの心構えで観なきゃ、と思ううちになんとなく疎遠になっていたのだった。

 

 

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しかし今回の『野火』はなぜだかもうどうしても観なければならない、という気持ちが公開前から膨らんでいた。それは最近では久しくなかった感情だった。

 

さて上映時間ギリギリに映画館に着いたので、暗がりの中ほぼ満員の館内で座席を探さなければならないはめになってしまった。そんなわけで一番前の席しか空いてなかったので仕方なくそこに座った。普段なら決して座らないんだけど。

 

この際書いておきますが、もしこれからこの映画を映画館で観る機会のある方に言っておきたい。一番前の席でこの映画観るの、かなりキツいです…

じっとりと熱いフィリピンの地に累々と横たわる朽ち果てた死体の山…容赦なく降り注ぐ機関銃攻撃で破壊される兵士の人体…もう全編目を覆いたくなるくらいのリアルすぎる戦場の描写が面前でこれでもか!と続きますんでスプラッター系の映画に耐性のない方はかなり気合を入れて観ることをお勧めしますぜ、旦那…

 

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主人公の田村は所属していた部隊からも病院からも追われ、たった一人で、飢えながらジャングルを彷徨う、いつでも自決できるように、と手榴弾を抱えて…というとてもシンプルなストーリー。

 

何度も何度も絶望的な状況に置かれる田村ですが、生への執着を捨てることができません。その姿は悲しくもあり滑稽でもある。そしてまぎれもなく人間そのものだった。

 

私的にかなり印象に残ったシーンがありまして。それは田村と行動を共にする兵士たちが味方と合流するため夜中に小高い山をほふく前進で登ろうとするんですね、真っ暗ななかに突然サーチライトが照らされて、敵の一斉放射を浴びる。この映画全体の中でもかなり強烈な、まさに地獄絵図。

 

ほふく前進なので、目の前に他の兵士の靴底が見えるんですよね。その兵士たちがあっという間に人間から”肉の塊”になってしまう…このシーンを観たとき思わず『これってまさに当時の兵士たちが見た光景じゃなかろうか…』とタイムスリップしたような心境になってしまったんです。それはもう”現場に叩き落されたような気分”って月並みな表現じゃ言い表せないくらいの、強烈な”体験”でした。

 

 

この『野火』は究極の飢餓に陥っていた兵士たちが”人肉を食う”というタブーを犯す、というショッキングな内容を含んでいますが、そうしたある意味”下世話”な要素はとても重要ではあるものの、この映画の全てではなかった。

 

極限状態において人間の”正気”と”狂気”を分かつものは何か?”人間性”とは?という問いを観る者に突き付ける、それは例えば『2001年宇宙の旅』のように、”SF”だの”戦争映画”だのといったジャンルの壁を越えた、いわば哲学の領域まで達している作品と思いました。

 

…誰一人英雄が登場しない、ひたすら惨めでやるせないこの『野火』こそ究極の”反戦映画”だよ。こんなことがほんの70年前に実際に起こったことなんだ、と我々はもっと肝に銘ずるべきだと、そう思いましたね。

 

※ちなみに俳優として塚本氏が参加している、来年公開予定のマーティン・スコセッシ監督作『沈黙』も楽しみ!

 

 

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野火 (新潮文庫)

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塚本晋也×野火

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 (※追記 2015.9/7)

女優・常盤貴子が映画の舞台挨拶で、自分が出演した映画そっちのけで”野火”を絶賛しまくった、というお話。昔から好きな女優さんだったけど、ますます好きになった。

 

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