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10年イシウエのブログ~とりあえず今日を生き抜きたいからっ!~

”凡人”10年イシウエがそれでも生き抜くために日々摂取している『心の栄養素』あれこれを書き綴っていきます。

”ミスターメランコリー”バーナード・サムナー自伝『ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、そしてぼく』

洋楽 本・漫画

私が洋楽ロックに本格的に目覚めた中学2年のころ、情報を得るために熱心に観ていたテレビ番組は、現在も現役DJとして活躍してる小林克也氏が司会していた”ベストヒットUSA”だった。

 

我が地元では、たしか不定期の、また深夜の放送だったこともあり、茶の間に一台テレビがあるだけの我が家ではリアルタイムの視聴が困難だったので、ビデオで録画予約して後日観るのがひそかな楽しみだった。

 

番組名に”USA"と名付けてあるだけに、基本その番組ではアメリカのヒットチャートの曲のPVを流していたのだが、あるときイギリスのミュージックシーンを現地取材する、という企画があったのだ。

 

確かインタビューを受けてたのはそのころ『19』という曲がヒットしていたポール・ハードキャッスルだった、と思う。(懐かしい)

 


Paul Hardcastle - 19 (Nineteen) - YouTube

 

で、その放送の最後で当時イギリスのインディーチャートトップ10がちらっと紹介されたんだけど、その中で私がえらく興味を惹かれたのがニューオーダーの”パーフェクト・キス”という曲のPVだったのだ。

 


New Order - The Perfect Kiss [OFFICIAL MUSIC ...

 

このPVを観ていただくとわかると思うが、殺風景なスタジオで飾り気のないメンバーが物仏頂面で淡々と演奏してる姿を、とくに凝った演出もなしに映し出してるのが、MTVが台頭し贅沢でど派手なミュージックヴィデオ全盛だった当時からすると、逆に妙に新鮮…というか明らかに異質だった。

 

もともとニューオーダーのことはロッキンオンを熱心に読み込んでいたので名前は知ってはいたものの聴いたことはなかった。ここ日本では彼らの存在はまだかなりマイナーだった…というか私が中学のころはブルーハーツ、BOØWY、ユニコーンなどの日本のバンドが大人気で、洋楽、それもイギリスのインディーロックを聴いてるようなやつは少なくと私の周りでは皆無だったのだ。

 

1986年発表されたアルバム”ブラザーフッド”が私にとってニューオーダーの音楽に触れた初体験。その後今日に至るまで30年間、なんだかんだでずっと彼らのファンだ。基本移り気で新しもの好きな私にとってはかなり珍しいことなのだが、なんで一体こんなにも彼らの音楽を好きなんだろう?と自分でも思うのだった…というわけで今回のエントリーはなんでそんなに長い間彼らのファンなのか?自分なりに考えてみようと思いまして。

 

ブラザーフッド

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 (↑このアルバムの最後の曲で「…君は豚に似てるね  動物園に行った方がいいよ」という酷い歌詞を唄ってるとこで吹き出してるのを、そのまま収録してる)

 

 

先日このニューオーダーのヴォーカル・ギターを担当するバーナードー・サムナーの自伝を読んだ。

 

ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、 そしてぼく (ele-king books)

ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、 そしてぼく (ele-king books)

 

 

 

今でこそ積極的だけど、実は以前の彼らはインタビュー嫌いで有名なバンドでした。その寡黙さがナイーブでメランコリックなメロディーを紡ぎだす彼らのミステリアスなイメージにぴったりだったのだけど、この自伝ではバーナード(以下バニー)の幼少の記憶から名曲の誕生秘話までかなり突っ込んだ記述が満載でファンとしては読み進むのを休むのが惜しいくらい、かなり分厚い本なんだけど一気に読んでしまいましたね。

 

1956年イギリスの地方都市・マンチェスターのサルフォードで生まれたバニー。脳性麻痺のため車いすで暮らす母ローラの一人息子として、また実父を知らない子として、ローラの祖父母と共に育てられたことは、この本を読んではじめて知った。

 

衰退する第二次産業が中心であるマンチェスターの、そのまた典型的な労働者階級の街・サルフォードでの暮らしの描写はまさにイギリス映画界の巨匠、ケン・ローチの映画のよう。粗野で埃っぽくて、でも人の温かみが感じられる街…意外にも筆が達者なバニーが切り取る、60年代後半から70年にかけてのイギリスで生きた普通の少年の生活がなんともほほえましい。

 

だが、そもそもいわゆる一般的な家庭とは大きく異なる困難を抱えたサムナー家と当時不況にあえいでいたイギリスの社会的状況がバニー少年に容赦なく襲い掛かる。「イギリス最大のスラム」と新聞に書き立てられ、政府の都市計画で古い家々が取り壊され、住民は新しい団地に引っ越すことを余儀なくされたのだ。

 

子供たちが遊び、近所の人たちがおしゃべりに興じ、あれほど騒がしかった通りが、公団の業者が空き家の窓やドアに板を打ち付ける音以外にはひっそりとしてしまった。

 

永遠に続くと思っていた活気あるコミュニテイが無に帰し、そのコミュニティの感覚で緊密に結ばれていた人々が放り出されるのを私は見てるしかなかったのだ。

 

何もかもなくなった。学校さえも取り壊された。それはまるで、誰かが私の思い出を消そうとしているかのようだった。手で触れ、感じられるもの、匂えるものさえ全部なくなってしまい、二度と帰ってこなかった。…

 

私がこの頃さらに音楽に没頭したのは偶然ではなかったと思う。当時起きたことは、私が作ってきた音楽に大きな影響を及ぼし続けているからだ。ジョイ・ディヴィジョンの音楽への私の貢献からは、コミュニティの死と、私の子供時代の死が聞こえてくるはずだ。

 

”ジョイ・ディヴィジョン”とは1976年に結成されたニュー・オーダーの前身バンド。今では伝説的存在として映画化もされてるのだが、私自身は中学のころはじめて聴いたとき、あまりに暗く重苦しく感じられてニューオーダーほどは好きになれなかった。

 

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映画『JOY DIVISION ジョイ・ディヴィジョン』予告編 - YouTube

 

死と喪失のイメージが充満したモノクロのイメージ…まだ20歳前後だった若者がクリエイトしたわりには、あまりに陰鬱なジョイ・ディヴィジョンの音楽に対し私は『これって暗いことがクールだと思う、一種のポーズだったんじゃない?』と思ってたんだが違っていたようだ。将来の展望も未来もほぼ閉ざされていた、当時のマンチェスターの労働者階級出身の若者たちが決死の想いで作り出した、まぎれもなくリアルなサウンド。

 

 この本では、そのジョイ・ディヴィジョンのヴォーカリストで1980年に突如自殺を遂げたイアン・カーティスについても、今まで聞いたことないくらい詳細に綴られている。自殺直前には自分に家に泊めていたり、小旅行に行く予定すらあったバニーの文章からはバンドメンバーである以前に大切な友人であった、イアンを止めれなかった悔しさがにじみ出ていて読んでいるこちらも胸に迫るものがあるのだった。

 

 …とはいえ、この本にはそうした悲しいエピソードだけではなく、”24アワーズ・パーティー・ピープル”としてつとに有名であったニューオーダーのハチャメチャなツアー体験記や、貴族階級出身で地元のテレビ局で働いていたトニー・ウィルソンが興したレコードレーベル”ファクトリー”、そしてそのトニーが中心になって発足した、これまた伝説的なクラブ”ハシエンダ”の無軌道極まりない運営ぶりが面白おかしく何度も笑ってしまった。自身のアートにおける信条を守るためには儲けは二の次、とする”パンク”な姿勢を(ときにその頑なな想いが彼らを破産寸前にまで追い詰めようとも)ニューオーダーにかかわる人々全てが大なり小なり持ち続けている。やはりそこには都会であるロンドン、とは違った価値観を切り開こうとするマンチェスター人の気概を感じるのだった。

 

 

 

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そしてここ最近で最も重要なトピックである、オリジナルメンバーのベーシスト、ピーター・フックの脱退を巡るいざこざの件もかなりあけすけに語られている。これについてはバニー側の視点だけで語るのはフェアじゃないんで感想は控えますが。

 

 

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 (↑ピーターが書いたハシエンダについての回顧録)

 

 

 圧倒的なカリスマ性を持ったヴォーカリストだったイアンを失った後、残されたメンバーの中から半ば成行き的に新しいフロントマンになったバニーには、よくも悪くもフロントマンらしい自己顕示欲も誰もが惹きつけられる華も正直薄い。それなのにジョイ・ディビジョンよりも世界的成功を収めてしまったこともそうだけど、それをイギリスの地方都市であるマンチェスターに住み続けながら、なおかつ潤沢な宣伝資金もない一インディーレーベルに所属していながら成し遂げた、というのは我々が思う以上に奇跡的なことなのですよ、やっぱりどう考えても。もちろん彼らの音楽自体に魅せられてる私ではあるのだけど、そうした彼らの奇妙で頑固で行き当たりばったりで不器用な、他に見当たらない独自の道程に同じく地方都市で生きる我々音楽ファンは、どうしようもなく魅了されるんですよね。

 

人生ではくそみたいなことが起こるが、それを乗り越えることもできる。 それに負けないでほしい。その言葉とともに、私のストーリーはここでいったん終わりにしておこう。

 

”ミスター・メランコリー”のバニーの口から、まさかこんな言葉が聞けるとは(笑)。しかしこの言葉からもわかるように、バニーは基本冒険好きで社交好きで楽天的な”いい奴”なんだろうなぁ、と思いましたね。まぁそうじゃなきゃ同じバンドを30年も続けられないのかも、ね。

 

 

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