10年イシウエのブログ~とりあえず今日を生き抜きたいからっ!~

”凡人”10年イシウエがそれでも生き抜くために日々摂取している『心の栄養素』あれこれを書き綴っていきます。

イギリス在住の保育士兼パンクなライター、ブレイデイみかこの新書~” THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本”~

イギリスの映画監督、マイケル・ウィンターボトムの作品に”ひかりのまち”という映画がある。この映画ではかの国の典型的なワーキングクラスの人たちが数多く登場するのだが、ある何気ないシーンがとても気になった。

 

ひかりのまち [DVD]

ひかりのまち [DVD]

 

 

それは、とあるカフェでウェイトレスをやってる女性が、仕事中にかかってきた携帯電話を取り、そのまま外に出て話し込む、というシーン。それ観たとき真っ先に思ったのは

 

「これ、同じこと日本でやったら、オーナーか先輩かに絶対『仕事中に電話するな!』って怒鳴られるよな…」

 

たぶん私自身、職場の同僚かはたまた後輩が同じことやったら怒るもん。ふざけるな!って。でもイギリスではこうした光景は特別おかしなことではないのだろう。なんでもスーパーのレジで店員同士が話し込んで、レジ打ちが滞って行列ができる、なんてざらにあるって在英の知人に聞いたことあるし。そうそうある商品のクレームを言うために企業に電話したら「その件は私の責任ではないので知りません」ってオペレーターに突っぱねられた、なんて話も聞いたことあるわ。それが事実ならイギリスって、従業員だから・雇われているから我慢しなければならないことのハードルが日本に比べてかなり低くて緩いんだろうなぁ…そもそも“労働”に対する考え方が根本的に日本人とは違うのかも。ある意味羨ましいけど大変かもしれん、ムムム…と思うのだ。

 

さて、のっけからイギリスの悪口みたいになってしまったが(苦笑)、これから先はこのたび発刊されるイギリス在住の保育士兼コラムニスト?であるブレイディみかこ著の本” THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本”の書評を進めることにする。

 

THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本

THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本

 

 

ざっくり説明するとこの本は、在英20年以上のみかこさんが久しぶりに日本に帰り、この国の市民・左翼運動、また子育てや貧困を取り巻く状況についてリポートしている。

 

私はたまたま以前、このみかこさんの前書”ザ・レフト”にひじょうに感銘を受けて、それからほぼほぼファン状態で彼女のコラムをあれこれ読ませてもらっていた。特にここ最近のイギリスの政治情勢、スコットランド独立やイギリスのEU脱退の際はイギリスの”地べた”から発せされる彼女の示唆に富む文章がなによりためになったし、日本ではうかがい知れぬ英国の状況をより深く理解することができた。そんな訳で、そんな彼女が今の日本をどのように感じるのか、とても興味があったのだ。

 

ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 (ele-king books)

ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 (ele-king books)

 

 

10nen-ishiue.hatenablog.com

 

…さて、またまた話は脱線するが、私にとって物事の判断基準で『パンク(PUNK)であるか否か』はとても重要だ。パンクとは70年代後半に起こったロックのムーブメントで、それまでロック界の主流だったハード・ブルースロック、また難解で長大・テクニック指向なプログレッシブロックに対抗するような、シンプルなコード、お世辞にも上手いとはいえない荒々しい演奏スタイルで、そこから派生してあらゆるジャンルのカルチャーで既成概念だったり伝統・因習だったりを打ち壊す過激な表現形態として大きな影響を与えた。元々はニューヨークでバンド・ラモーンズなどが出てきたときに生まれた音楽ムーブメントだが、そのスタイルは海を渡り未だ“階級”という壁が大きく横たわるイギリスにおいては、社会を揺るがすほどにまでの大きな文化革命になったのだった。

 

私にとって「この人はパンクか否か!?」というのは、要するに支配階級ではないこと、そして“地べた”に暮らしつつも決してそこに安住しない・変革を求めるエネルギーを持っている人、ということだ。みかこさんの文章を読んでいると、イギリスの被支配階級の人たちの逞しさというか、自らの尊厳を守るための不屈の精神にある種の尊敬の念すら感じる。

 

冒頭で書いたイギリスの日常風景(?)は、イギリス人が心の奥に隠し持っている「雇われの身であろうと、奴隷のように自由を奪われるのはごめんだ」というパンキッシュな気持ちの表れかもしれない。

 

だが、日本と違っていたのは、この人たちは「自分にお金がない」と高らかに言うことができ、貧乏人はここに確かに存在するんだとやかましいぐらい主張して、それがあまりに堂々としているものだから「ワーキングクラス・ヒーロー」などと呼ばれてクールな存在とさえ見なされていた。彼らは、貧乏なのはじぶんのせいだと自らを責めるのではなく、「貴様らがしっかりやってくれないと末端は苦しいだろう」と政府に拳を上げ、相手が無視すると暴動すら起こすのである。

 

イギリス人のように騒々しいくらい自身の権利を主張することなんて、とかく”自己責任”という言葉を雇う方・雇われる方問わず大好きな、慎ましい日本人は一体いつになったらできるだろうか?しかし、アメリカではバーニー・サンダース、スペインではパブロ・イグレシアス、そしてイギリスではジェレミー・コービンのような政治家が多くの人々の支持を集めていることからわかるように、世界は1%の富が集中している層VSそれ以外の99%、という”反格差””反貧困”を訴える方向に変わり始めている。名もなき日本の小市民の一人だって、お金持ちじゃなくったって、もっと生きる権利を主張してもいいんだよ、そして権利というのはいつだってそこにあるものではなく自分たちの手でつかみ取らなければならないのだ、と日本人がつい忘れがちなことを思い出させてくれる、そんな本なのです。

 

 

 ↓ブレイデイみかこさんが人生の師と仰ぐ、元セックス・ピストルズのヴォーカル、ジョン・ライドンの最新自伝。一見むちゃくちゃなこと言ってそうで一本筋が通ってます。

ジョン・ライドン 新自伝 怒りはエナジー

ジョン・ライドン 新自伝 怒りはエナジー